日本を知る、地域を考える@岡山県倉敷市児島:一輪の綿花がジーンズに~工場直販サイトとともにMade in Japanをブランディングする~後編

 

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東京一極集中などの人口問題で地方消滅の危機が叫ばれる中、多方面から地方活性化への取り組みや事業を行うとし、2014年秋、第2次安倍改造内閣発足と同日の閣議決定によって「まち・ひと・しごと創生本部」が設置された。しかし「一億総活躍社会」、「働き方改革」、「人づくり革命」などの新しいキーワードを次々に打ち出される一方、ニュース等で語られることすら減っている「地方創生」。


強い意思と構想、熱情から始まった取り組みや、全国で話題を集める地方発のヒット商品などを生み出す成功企業が生まれている一方で、アイデアもやる気もない住民、仕事を終えたらすぐさま中央へと舞い戻るコンサル、中央の助成金を引っ張ってくることしか考えない自治体など、地方創生に関わる当事者たちがどこか他人事で、あきらめているかのように映る側面もある。


本企画では、そんな各地方の"先駆者"や"成功者"に地域の魅力と問題点、地域経済も含めて今後をどう見ているかを取材。外部から見た客観的な課題を同時に伝えることで、地方が抱える諸問題を紐解いていく。



「いいものをつくる」ことだけに注力してきました


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1988年に完成した瀬戸大橋(本州四国連絡橋「児島・坂出ルート」)の本州側の起点であり、国定公園内にある鷲羽山や王子が岳から臨む瀬戸内海は絶景のひと言。


地元の子であれば一度は行ったことがある遊園地「ブラジリアンパーク鷲羽山ハイランド」や、江戸時代の面影を残す「下津井の町並み」、「児島ジーンズストリート」といった観光スポットが人気。倉敷市全体の観光客は年間600万人を超え、日本を代表する観光地の一つとなっている。しかし、観光地以外に目を移すと、日本全国どこにでも見かけるシャッター通りが得も言われぬ寂しさを感じさせる。


そんな倉敷の町には、世界で指折りの縫製技術を持った工場が存在する。長引く不況と円高、ファストファッションブームの到来。低コストの海外生産にシフトするメーカー。それに伴う日本の技術の衰退。先細りとなっている業界に若い人材が入ってくることもなく、高齢化するばかりの従業員...。これらのあおりを受けて日本の工場の数が激減、1990年に50%を超えていたアパレル製品の国産比率は2010年には5%を切るまでに減少。今では3%台にまで落ち込んでいるという。


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「産地がダメになれば、イコール自分たちも終わる」そう語るのは、長らく欧米産のジーンズを礼賛し、追随してきた「ジャパンブルー」の代表取締役社長・眞鍋寿男さん。眞鍋さんが肌で感じる繊維業界の危機感は切実だ。


こうした危機的状況を目にして立ち上がったのが、2012年に、「日本のものづくりから世界一のブランドをつくる」ことを目指してMade in Japanの工場直結ファッションブランド「Factelier(ファクトリエ)」を立ち上げた「ライフスタイルアクセント株式会社」代表・山田敏夫さん。


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「日本をはじめとする先進国において、価格ではなく価値主導になる時代になってくるんじゃないかと思ったんです。どちらかといえば"感情を買う"ということをやっていかなければいけないなと。世の中の90何%かの人は、何かしらモノを買いますよね? でもファストファッションだったり、大量生産、大量消費という時代に入っている今の世の中、100円ショップでハサミを買っても翌日壊れることはないですし、回転寿司でお寿司食べてもまずいってことはないし、あらゆるモノの平均点が上がっている。そして現状では、きっと9割くらいの人が満足している。僕はそれを否定しているわけではなく、残る1割の人たちに向けて何かやっていきたいと考えました」(山田さん)。


眞鍋さんも「(ファストファッションは台頭してきたが)昔から、いいものをつくるということだけに注力してきましたし、それは今も変わらない。そうした中、この10年、20年で消費者の目も肥えてきた。値段だけでは選ばない。高くてもいいものはいいという人は確実に増えてきたと思う」としみじみ語る。


一番大事なのは、"もう一度、日本のものづくりをよくしていきたいという使命感が一緒なのかどうか"。工場に求めているのは本当にいいものづくりを適切にやっていくこと。
眞鍋さんの『ジャパンブルー』には旧式の力織機があり、糸からロープ染色して、その織機で生地を織ることができる。山田さんは、高い技術力はもちろん、語るべきストーリーがあるところに魅力を感じたそう。「語れるものしか販売しない!」が山田さんのモットーだ。


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「ジャパンブルー」も、取り引きの際は、素材や色、織りや縫製について対面でしっかりと説明するそう。商品にかけた思いやこだわりを届けるために、海外の店舗を一つずつ回って営業をかけたという。



いざ、日本が誇る「ジャパンブルー」の工場へ!


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今回、「テレ東プラス」取材班が見学させてもらった「ジャパンブルー」の工場では、この道40年というベテランの職人が、五感を駆使して旧式の力織機を操作。最新機器に比べて織るスピードが1/6程度で、1時間で織れる生地は、わずか3メートルほど。ジーンズの要尺(必要な生地の長さ)が2.5メートルであるため、1時間に1本分と効率はよくないが、力織機でしか出せない風合いを醸し出す。


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縫製の際も御年70歳という職人が、生地を裁断(1本のジーンズで11パーツ、多い時は15パーツ)。各パーツに適した13種類50台のミシンを使用し、場合によっては特殊なミシンの開発を行うこともある。


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そこで工場を結び、一つの流通にしたのが「ファクトリエ」の山田さんだった。「ジャパンブルー」は、もともと生地の工場。旧式の織機がある「ジャパンブルー」の近場には、これを縫製する「高木ソーイング」という工場がある。この2つの工場を結び、一つの流通にしたのが「ファクトリエ」の山田さんだった。山田さんが代表を務める「ファクトリエ」は、北は青森、秋田、岩手から、南は熊本、宮崎まで全国55ヵ所の工場と提携。「モノこそが最大の営業マンだと考えている」そうで、宣伝はすべて口コミだというから驚く。


「例えば、愛知の工場に秋田にある工場を紹介したら、送料が5000円くらいかかりますよね。100着しか作らないのに、1着あたり100円以上も値段が上がってしまいます。でも、消費者のみなさんは、その事実を知らない。だからできるだけ、輸送コストが低い場所にある適切な工場同士をつなぐように努力しています。つくる人の仲をつないでいく...。染色ができる、縫製ができる、生地作れるよ、というところをつなぐと一個のアイテムができるので、そこを僕らがお客さんへとつないでいくわけです」(山田さん)。


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加えて、どういう環境でどんな人が作っているか、そこが生産地として発達した地形的特色など、モノにまつわるストーリーも合わせて伝えていく。


「本物のブランドはものづくりから生まれる」ことを学んで起業した山田さんは、会社設立から3年間で全国350の工場を自ら訪問。時に門前払いされながらも粘り強く交渉を重ねた。「ジャパンブルー」もその中の一つ。


「愛着を持って長く使えるMade in Japanで、多くの人たちを夢中にさせることが僕のミッション」と語る山田さん。信頼を得るまでに相当の時間を要したが、「日本のものづくりを世の中に示したい」との熱意が多くの工場を動かした。これまで工場側の利益は受注額の20%が相場だったところ、50%の利益を取り分と決め、儲けもリスクも工場と対等な形で付き合う。


「日本から世界的ブランドを生み出すという夢を愚直に追いかけたら、その結果として工場が潤い、副次的に地方創生につながった」と語る山田さん。地方創生のために工場と提携するわけではなく、いい工場であればどこでも提携するという。


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一方、「ジャパンブルー」の眞鍋さんも、


「伝統を継承しつつ、よくも悪くも欲深く新しいことに挑み続けることで、やがて地域の活性化にもつながる。勝手に人が集まってくるジーンズのシリコンバレーになることが大事。それには"産地"が大事かなと思います。全国にもたくさんの産地があり、そこを武器に産業として商売をやっていく。児島にも繊維産業を中心に、オンリーワン企業や日本一、世界一の技術を持った企業など、隠れた産業資源がたくさんあります。さらに、原料、製品、商品、加工、そして技術者もいる。ただ、視察に羽化だった新潟県の燕三条(金物)や福井県の鯖江(メガネ)などもしかり、そこで働く人、暮らす人が地元の魅力や価値にあまり気づいていない。そこが歯がゆいですけど...」と本心をのぞかせる。


さらに眞鍋さんからは、「いっそ、違う街同士がたまにシャッフルして暮らしてみたら、少しは地元の再発見につながるのかも...」という仰天プランも飛び出した。


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「そこに住んでいる人をまとめるのは難しいです。"自分が食べられて、穏やかに暮らしていたらそれでいい"という人もたくさんいますから。だから仲間がほしいですよね。共感できる、一緒に行動してくれる仲間が...。小さな町だと、外に出たことがない人も多いため、なかなか仲間が見つからない。だからこそ地域は、『ファクトリエ』のような外部の方にどんどん入っていただくことが大事だと思います」(眞鍋さん)。


「今はファッションで精一杯ですが、洋服だけに限らず、時計とか、宝石とか日本全国の工場が疲弊して苦しんでいる。家具の工場とか、自然栽培をやっている野菜の加工品を売って欲しいなど色々な業種から相談があるので、救えるところがあればやっていきたいです」(山田さん)。


世界一のジーンズをつくるべく児島を舞台に奮闘してきた眞鍋さん。同じく世界一のブランドを目指す中で、眞鍋さんと出会った山田さん。2人は冒頭に書いた先駆者であり成功者であり、地方都市の"新たな未来を拓くかもしれない優れた人物"。2020年に設定された政策目標まで2年を切った中、これから何ができるのかはわからない。個々の努力だけでは解決できない大きな壁があるだろう。しかし、強い意志と行動力があれば、一歩ずつではあるが、何かが変わるのかもしれない。


「JAPAN BLUE」
倉敷市児島においてデニムの藍(青)を追及するジーンズ・デニムハウス。伝統の技と現在の最新技術を用い、デニム生地を始めとしたテキスタイルから、ジーンズ・藍染め製品まで幅広く展開。インターネットではジーンズの通信販売、オーダーメイドジーンズと藍染め製品のオーダーを受注している。


公式ホームページ:http://www.japanblue.co.jp/


「Factelier (ファクトリエ)」


世界が認める日本の工場と、あなたを繋ぐ。「ファクトリエ」は最高の品質をあなたに届け、日本の工場を救う全く新しいファクトリーブランドです。本物の価値をもっと身近に。


公式ホームページ:https://factelier.com/


朝の散歩道
厳選いい宿
虎ノ門市場
昼めし旅
出没!アド街ック天国
博多華丸のもらい酒みなと旅2
ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z


「テレ東プラス」編集部では、今後も知られざる日本、また、日本全国で"地方創生"に果敢に取り組んでいる地域や人々を紹介していく予定だ。

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